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大型アラビアンナイト小説
アラジンも魔法のランプ
佐野祭

 松本喜三郎の夢にお告げがあった。
「お前に魔法のランプをあげよう。こするとアラジンが出てくるぞよ」
 目を覚ますと確かに枕元に古ぼけたランプが置いてある。これはよいものを貰ったと、使い道をいろいろ考え始めた。
「よし、世界征服だ」
 喜三郎は世界を手中にした自分の姿に想像を巡らした。まず、世界を征服したからには帝王と名乗らなければならない。帝王になったら何をするかというと、やはり毎朝鳥の丸焼きを食うのだ。毎朝では飽きるから、やはり豚の丸焼きも食わねばなるまい。それから帝王になると……
 世界征服はやめた。帝王が何をしたらいいのか結局わからない。だいたい、丸焼きを食うだけなら、帝王にならずとも直接丸焼きを持ってこさせればよいではないか。
「よし、女湯に入るぞ」
 違う。これは透明人間になったときにやることだ。アラジンを呼びだしてどうなるものではない。
 喜三郎は自分の想像力が貧困なのを認めざるを得なかった。いろいろ考えてもどうも類型的な欲望しか出てこないのである。
 さんざん迷ったあげくの喜三郎の結論はこうだった。
「案ずるより生むが易し」
 とりあえずランプをこすり始めた。しばらくこすっているとランプの口から白い煙のようなものが出始める。しめたと思って手をゆるめると白い煙は引っ込んでしまう。これはいかんとこすり続けると白い煙がまた出始める。ここで気を緩めてはいけないとこすり続けると煙がだんだん大きくなる。しかし一定の大きさから先なかなか先に進まない。気合いを入れて強くこするとなんとか少しずつ大きくなる。かれこれ二時間ばかりこすっているうちにやっと人間くらいの大きさになった。ここぞとばかりに手が痛いのを我慢してさらに強くこすると、煙の中からぽんと一人の男が飛び出した。
「おはようございます。アラジンです」

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