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 チョコレートは濃厚な味でほどよく甘みが抑えられていた。むしゃむしゃと一個まるごと食べてしまい、最後に指についたチョコをしゃぶっていると、だんだん冷静さを取り戻してきた。
(ま、まずい。もしかしたら今のが毒入りかもしれん)
 こういうときこそ落ち着かなければならない。ミステリー作家がむざむざと毒殺されたのでは恥である。
 B5版のレポート用紙を取り出し、いま食べたチョコレートの送り主の名前を書き付けた。
(ただで死んでたまるか。迷宮入りはさせん)
 しかしよく考えると名前だけではどこの誰かわからない。いま書いた名前のとなりに住所も書き足した。
(これでOKだ)
 安心したらまた食べたくなった。時計を見るとさっき食べてから五分たっている。
(もう大丈夫だろう)
 名前のところに大きく丸をつけると、二つ目のチョコレートを食べ出した。
 また名前と住所を書いて五分待つ。また丸を付けようとして、ふと思った。
(待てよ。速効性の毒とは限らないじゃないか)
 と、いうことはこういう風に書いていっても犯人の特定はできないわけである。
(こんなとき落ち着くのがミステリー作家だ)
 住所の隣に食べた時刻を書き添えた。これで毒の種類と死亡推定時刻がわかれば、犯人特定の手がかりになる。
(よし、三個目だ)
 チョコの包み紙をむきながら思いついた。
(そうだ、チョコの包み紙を張っておけば、もっとはっきりした手がかりになるじゃないか)
 さっそく包み紙を二センチ四方切りとると、時刻の隣に張り付けた。
(ざまあみろ。この俺を毒殺しようったって、そうはいかないのさ)

「梅田君、病院から連絡はあったか」
「依然意識不明とのことです」
 有名推理作家松本喜三郎自宅で倒るの知らせに、三本松署の杉野森弥三郎警部と梅田手児奈刑事が駆けつけた。
「だが、被害者の残したメモがあって助かった。これでだいぶ犯人の特定が楽になる」
「私、こんなまめな被害者始めてです」
「見ていなさい。この杉野森がきっと、この三百人のリストの中から犯人を割り出してみせるから」
「ええ、三……百?」
「ああ。よし、さっそくこのリストの人物をあたるんだ。もしかすると偽名を使っているかもしれん」
 しかし手児奈は聞いていなかった。山のような包み紙を見ながら、
「そらー倒れるわなあ……」
とつぶやいていた。

     [完]




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