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「……えっと……お父様はビデオがお好きなんですね」
「もうこの人ったらずっとこればっかり。だって手児奈が生まれるときにね、産室にビデオ持ち込んだくらいなんですから」
 あれはなかなか感動的な映像だったぞ。やはり生命の誕生というのはな。いやあ私もね、入学式やら卒業式やら手児奈の節目のときには必ずこうやって撮ってますから。はい手児奈こっちむいて。いやしかしあれだな、手児奈の高校入試のときはくやしかったな。
「発表のときが撮れなかったんですか」
 そうじゃないんですよ、手児奈が試験受けているところを記録しようと思ったんだけど高校の先生が中に入れて撮らせてくれないんですよ。だから手児奈Vサインはやめなさい。ああいうところほんと今の学校ってのは旧態依然と言うか、頭が堅いなあ。
「は……はあ」
 やはり私ね、ああいうのは文部省と日教組が悪いんじゃないかと思うんですよ。はい杉野森さんのアップでーす。なかなかの好男子ですねえ。しょうがないから大学入試のときは自分も受験して一緒に中に入りましたよ。だから大学入試のビデオはばっちりです。今度お見せしましょう。
「はあ……どうも」
 そう、今はやはりこの子の花嫁姿を撮るのが夢ですけどね。でもこの子、式は教会であげたいって言っていて、それで困ってるんですよ。お母さんほらそんなコーヒーばかり飲んでないでもうちょっと話を聞いてるってふうに。ほら、教会の式だと花嫁の父親が花嫁と一緒にバージンロードを歩かなくてはならないでしょう。ね? それで困ってる。横向きの画面しか撮れない。
「そう……ですね」
 あはは、だから私ね、考えてみれば手児奈の晴れ姿ってあんまり生で見たことないんですよ。運動会で一等賞とったときも絵画コンクールで表彰されたときもいつも液晶ディスプレイ越しでしたからね。当時はファインダーか。だから手児奈Vサインはやめなさい。
「じゃあ梅田さん、年寄り連中はこのくらいにして、後は若い人たちに任せて」
 あ、そうですね。じゃ、手児奈、カメラ渡しとくから、後は任せたぞ。使い方はわかるな。杉野森さんにも適当にとってもらえ。
 じゃあ、杉野森さん、今後ともよろしくお願いします。では、失礼します。
 松本さん、今日はどうもありがとうございました。いつもほんとお世話していただいて。いやあ親の私がいうのもなんですけど手児奈ってほんと気立てはいい子だし、器量だってまあ十人並みだし、なんでこう毎度見合いがまとまらないのかなって思いますけどね。やはり、縁ですかね。

     [完]




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