PAGE 2/2
「ちょっと待って、トイレに行くのに税金がかかるの」
「ええ、サンボンマツではずっと前から」
「だって、そんな、排泄なんて人間の基本的な営みじゃん」
「衣食住だって人間の基本的な営みですけど、日本でも税金かかるでしょ」
「そりゃまそうだけど」
 ヤサブローはポットを取ってカップに注いだ。
「どうぞ」
「あ、ども」
 ヤサブローはクッキーを箱から出して皿に並べた。
「要はね、下水の問題なんです」
「下水?」
「四十年前まではね、サンボンマツも回りの国々と同じように伝染病による死者が多かったんです、すごく」
「ああ、そうだろうね」
「予防のためには下水道を完備しなければならないけど、それには金がすごくかかるでしょ」
「まあね、日本だってまだ完備してるとはいえない」
「で、その財源がなかったんで、原因を作った者の負担にするのが一番いいんじゃないかと、こうなったわけです。今じゃサンボンマツの下水普及率は日本よりいいですよ」
「うーん、理屈はわかるけど」
「だから私も日本に留学したとき、日本もそうすべきだと言ったんですよ、あちこちで。でも誰も聞いてくれませんでしたね、馬の糞に念仏で」
「ちょっと違うけど……まあいいや、やっぱそりゃ日本じゃねえ」
 私はカップを口に運んで一口飲んで、あやうく吹き出しそうになった。
「なに、これ」
「ドレヒンです。サンボンマツのお茶ですよ」
「無茶苦茶からいな」
「辛いの程上質なんです。私のところではそんな上質のは買えませんが。ま、無理でしたら、紅茶もありますよ」
「いや、せっかくだから、いただきます」
 私は無理矢理その赤茶色の液体を喉に流し込んだ。
 そこで無理をしたのがいけなかったのかもしれない。その晩はベッドに入っても、腹がゴロゴロしてしょうがない。たまらずトイレに駆け込んだが、どうも具合悪い。
 私は考えた。この調子だと出てもまたどうせトイレに逆戻りしなければなるまい。そうすると、出る度に排泄税を取られる羽目になる。だったらむしろ、この中にずっといた方がマシというもの。
 私が態度を決めてトイレに居座っていると、表でヤサブローの声がした。
「松本さん、考えていることはわかりますけど、排泄税はね、時間制ですよ」

     [完]




ぜひご意見ご感想をお寄せ下さい。(ここのボタンを押していただくだけでも結構です)
*.前頁
#.次の作品
0.Vol.2に戻る