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大型生活小説
排水管にあこがれて
佐野祭

 梅田さんご一家はどこにでもある普通のご家庭です。
 3LDKの賃貸マンションにご主人と奥さん、小学生の長女と幼稚園の長男の四人暮らし。いつも笑い声が絶えない梅田さんご一家です。
 そんな梅田さんちには、排水管を見張っている人がいます。
 松本喜三郎さん27歳。松本さんはここで、排水管がつまっていないかどうか常に目を光らせています。
「もしもし松本です。梅田さん宅で洗面所の排水管がつまった模様です。至急対応願います」
 さっそく作業員がかけつけ、排水管の掃除が始まりました。
 作業すること30分。排水管はすっかりきれいになりました。
 奥さんの手児奈さんも大喜びです。
「ほんと助かってます。もし見張る人がいなくて排水管が詰まったらと思うと、ぞっとしますね」
 今日も松本さんは排水管を見張ります。そんな松本さんの夢は、台所の排水管の担当になることです。
「やはり台所の排水管が一番詰まりやすいんで、経験が必要なんですよ」
 いま梅田さんちの台所では、松本さんの先輩が排水管を見張っています。松本さんは台所の排水管を見張る資格を取るべく、休みの日も遅くまで勉強しています。
 松本さんは排水管の担当になる前は、蛍光灯の見張りをやっていました。蛍光灯が切れそうになっていないかどうか、常に目を光らせているのです。
 いまでも梅田さんちでは、松本さんの後輩たちが各部屋三人ずつ配置されています。上の輪を見張る係。下の輪を見張る係。そして、豆球を見張る係です。
「やっぱ将来はね、松本さんみたいに排水管の見張りをやりたいですよね」
 排水管を見張るのは厳しい社内審査を通った人でないとできません。若者たちは今日も排水管を見張る日を夢見て蛍光灯を見張り続けます。
 松本さんの上司にあたる杉野森さんは松本さんについてこう語っています。
「とにかく真面目にこつこつやってますね。将来はドアが半開きになっていないか見張る係を任せてもよいのではないかと思ってます」
 そう語る杉野森さんは、いま梅田さんちでブレーカーの見張りをやってます。
 今日も奥さんの手児奈さんがうっかり電子レンジを使いながら掃除機をかけてしまいました。
「落ちました」
 さっそく作業員の人が飛んできてブレーカーを元に戻します。
 そんな梅田家に、新人が配属になりました。
 新人がまず最初にやる仕事は、ベランダですずめが来ないか見張る係です。
 来ました。すずめが三羽、梅田さんちのベランダで遊んでいます。
 新人さんはさっそく梅田さんに連絡を取ります。
「あもしもし、今すずめが三羽ベランダに来ているのですがどうしましょうか」
「そのままで結構です」
「了解しました」
 梅田さんの判断で、すずめを追い払うことはしないことになりました。
 松本さんはそんな新人の姿を頼もしそうに見つめています。
「私も新人のときはまずすずめの見張りから始めました。当時はそうですねえ、自分が排水管の見張りをやる日ってのは、ちょっと想像できませんでしたね」
 梅田さんちの快適な生活は、数多くの人々によって支えられています。

     [完]




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