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 喜三郎の元に通う毎日は続いた。そしていよいよ明日はクリスマスイブという日、喜三郎はいった。
「さ、もうどこへ出しても恥ずかしくないわ。名取の免状をあげましょう」
 手児奈は深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。先生に習って、はじめて私包むことの難しさと面白さがわかったような気がします。ぜひこれからも続けて習わせてください」
 喜三郎はにこりと微笑んだが、すぐに表情を堅くした。
「ありがとう。でもね、みんな始めはずっと続けるつもりで来るんだけど、なかなか続かないのよ」
「私、精一杯がんばります。これからもよろしくお願いします」
 喜三郎は堅くした表情をちょっぴり和らげてこくりとうなずいた。

 デパートに帰ると、すでにクリスマスプレゼントを買い求める人の行列ができていた。さっそくてきぱきと包み始める手児奈。その鮮やかな手付きに杉野森主任も満足げだ。店内は活気にあふれている。
「ねえねえ、ユーサクくんって青と緑とどっちが似合うかなあ」
「なあ、どういうのあげたらいいと思う?俺あんまり女の子にプレゼントしたことねえからわかんねえよー」
「それあんたの彼氏には地味すぎない?もっとパーッとしたのがいいんじゃないの」
「おまえ今どき三千円のブローチでごまかそうってのは太えんじゃねえか」
 手児奈はふと包む手を止めた。
 なぜ私はこうまでして包まなければならないのだろう。みんながプレゼントではしゃいでいるときに、彼氏を見つけるでもなく稽古を重ねてまで。クリスマスに浮かれる人々のために。
 顔を上げると、心配そうな表情の喜三郎がたっていた。
「ね。みんな続かないのわかったでしょ」

     [完]




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