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大型震災小説
字幕
佐野祭

「はい気象庁」
「あもしもし。千葉県の松本ともうしますが」
「ども」
「東京の震度七の大地震の様子はどうですか」
「あれはですね、NHKが間違ってテスト用の字幕出しちゃったんです。だから地震なんて全然なかったんですよ」
「でもNHKにかけたら全然電話がつながらなかったぞ」
「それはね、NHKに問い合わせの電話が殺到して回線がパンク状態なんですよ」
「嘘をつきなさい。千住の叔父のところにさっきから何度も電話してるんだが、ちっともかからんぞ。地震じゃなきゃなんなんだ」
「都内はどこもそうです。あちこちから心配した親戚とかが電話をかけるもんだから、回線が完全にふさがってるんです。ここはたまたまつながったんですよ」
「馬鹿を言いなさい。NHKが嘘を言うはずないだろうが」
「だから今しきりにおわびの言葉テレビで言ってるでしょうが」
「そんな、地震だってのに悠長にテレビを見てるわけないだろ。俺達はもう、家族連れて非常袋持って逃げてるんだから」
「あーん、もう気が早いなあ。だからあれは間違いなんだから家に戻られて結構です」
「貴様間違えたで済むと思ってんのか。いいか、他のことならともかく人の生き死にに関わることなんだぞ。万に一つも間違いがあっていいわけがないだろ。それをだな、仮にも受信料を毎月取っておいてだよ、おわびしてますでしゃあしゃあとしていていいと思ってんのか」
「だからうちは気象庁ですって、最初から言ってるでしょ」
「地震は貴様の所の管轄だろうが」
「別にうちらで作っているわけじゃない」
「なんだと。それが客に対する態度か」
「別に客じゃないんだけど、またそれ言ったら怒るしなあ」
「何をぶつくさ言っとる。お前じゃ話にならん、大臣を出せ大臣を」
「気象庁に大臣なんていません」
「だったらなんでもいい、いちばん偉い奴を出せ」
「長官どころの騒ぎじゃありません。今全員電話の応対でてんてこまいなんですから」
「お前全然責任感じてないだろ」
「何で私が責任感じなきゃなんないんですか」
「お前な、俺達は火災の被害が広がる前に福岡のいとこの所に疎開するところだったんだぞ」
「やめて下さい。大体東京がそんな大地震だったら、千葉から福岡までどうやって行くんですか」
「だからいったん成田に行って、ソウル経由で福岡に行く」
「んな無茶な」
「しょうがないだろ、東京が壊滅寸前とあれば」
「壊滅なんて誰も言ってませんってば。……あ」
「どうした」
「お宅、千葉に住んでるんですよね」
「最初から言ってるじゃないか」
「いくら字幕に出てるといっても、東京で震度七の地震があって千葉でわからないわけがないでしょ」
「うむ、私は念には念を入れる性格でな」

     [完]




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