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 喜三郎は『都』に丸をつけようとして尋ねた。
「最初は手堅く府から始めたほうがよくないですか」
「府になって何か嬉しい?」
 手児奈の言葉に喜三郎は考え込んだ。
「これは時間のかかる計画なの。府なんか目指してたらいつまでたっても都にはなれないわ。府の上には道があるのよ」
「道って、府より上なんですか」
「都道府県っていうじゃない。道はひとつで府は二つなんだから」
 言われてみるとそんな気もする。喜三郎は住所の続きを書き始めた。
「まだシールある?」
 喜三郎は百枚近くあろうかというシールを見せた。
「OK。どんどん書いてね」
「手児奈さんは書かないんですか」
「私はコーヒーあんまり好きじゃないから」手児奈は往復はがきを取り出した。「紅白の入場応募はがきを書くの」
 二人で何十枚とはがきを書いただろうか。
「さあ、今日はこのくらいにしましょうか。まだ先は長いわ。始めからとばすと、息切れしてしまう」
 喜三郎はペンを置いて肩をほぐした。
「乾杯しない?」手児奈がワインとグラスを取り出してきた。
「いいですね」喜三郎の顔がほころぶ。
 港はすっかり夜景に姿を変えている。手児奈と喜三郎はお互いのグラスにワインを注いだ。
「私たちの夢の実現に」二人はグラスを上げた。「乾杯」
「いつごろ実現するでしょうね」喜三郎は尋ねた。
 手児奈は港を見つめていたがゆっくり答えた。「それはわからない」
 窓に透けて映る手児奈の目はほほ笑んでいた。
「十年かかるかも知れないし、二十年かかるかも知れない。でも積み重ねていけばいつかきっと実現する。誰も傷つけることなく、血を流すこともなく」
 喜三郎も一緒に港を見つめた。
 二人はそのままやがて首都になるべき街を眺めていたが、喜三郎が言った。
「化猫時計当たりますかね」
「無理よ」手児奈が即座に答えた。「もういくらはがき出したって、あたりゃしない」

     [完]




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