PAGE 1/1
大型魔法小説
魔法使いのお礼
佐野祭

 杉野森弥三郎は歩いていて小石をけっとばした。
 すると小石はみるみるうちに大きくなって、男の姿になった。
 男は言った。
「ありがとうございます。私は魔法使いのキサブロー・マツモート。仲間の悪い魔法使いにだまされて小石に姿を変えさせられていたのです。あなたが蹴飛ばしてくれたおかげで、人間の姿に戻ることができました。あなたは命の恩人です。どうかお礼をさせてください」
 弥三郎が無視して通り過ぎようとするのを、キサブローはあわてて呼び止めた。
「ちょっと待ってください。お礼を」
「この世に魔法使いなんて、いるもんか」
「困ったな。じゃあ、ちょっとあの街灯を見ててください」
 弥三郎がキサブローが指さした街灯を見た。キサブローが「えいっ」と気合いをかけると、たちまち街灯はぐにゃりと曲がった。
「すごいじゃないか。あんたは超能力者か」
「みんな魔法は信じないけど超能力は信じるんだもんなあ……まあいいか。私も魔法使いのはしくれ、助けてもらって恩を返さないわけにはまいりません。お礼の品をさしあげましょう」
 キサブローはポケットから包みを取り出して弥三郎に渡した。弥三郎は包みを開けて中の物をしげしげと眺めていたがキサブローに聞いた。
「なんですかこれは」
「何度でも使える魔法の麦茶パックです」
 弥三郎の表情を見てキサブローはあわててつけ加えた。
「お気に召しませんでしたか?では、こちらはどうでしょう」
「これは何だい」
「何度でも使える魔法のモミモミカイロです」
 行こうとする弥三郎をキサブローはあわてて呼び戻した。
「まあ待ってください、こういうのもありますよ」
「なんだい今度は」
「何度でも使える魔法のノンスメルです。ああっと待ってください。これはどうですか」
「ん」
「何度でも使える魔法の百円ライターです。あ、あのですね、何度でも使える魔法の紙コップもあります。あ、それとですね、何度でも使える魔法のパーティ用クラッカー。えっとこれは何度でも使える魔法のタンポン。何度でも使える魔法のベープマット。何度でも使える魔法のハガキ。何度でも使える魔法の三角コーナーの水切り袋。何度でも使える」
 キサブローが目を上げると、はるか向こうに弥三郎の後ろ姿があった。キサブローはつぶやいた。
「何度でも使える消火器、もあります」

     [完]




ぜひご意見ご感想をお寄せ下さい。(ここのボタンを押していただくだけでも結構です)
#.次の作品
0.Vol.1に戻る