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大型ものすごい小説
ものすごい熱情
佐野祭

 車の通りのものすごく激しい街路ぞいの喫茶店。
 ものすごく苦いコーヒーをものすごい勢いで飲み干して、手児奈はものすごい伝票を取り上げた。
「だから、もう、会わない」
 ものすごく驚いた喜三郎はミルクティをものすごくこぼし、そのものすごさに呆然とした。
「じゃあ」
 振り向きもせず出て行く手児奈の後ろ姿はものすごかった。手児奈の後をものすごくあわてて追いかける喜三郎。
 喜三郎が喫茶店のものすごいドアを開けると、手児奈はものすごい横断歩道を渡って通りのものすごい向こう側へ歩いて行った。喜三郎がものすごく追いかけようしたとき、ものすごい信号がものすごい赤になった。
 かまわずにものすごく渡ろうとする喜三郎にものすごいトラックがものすごいクラクションを鳴らす。後ろにものすごくとびのいた喜三郎は向こう側の手児奈にものすごい声で呼びかけた。
「なんで」
 手児奈はものすごく無視して歩いて行く。車の量は渡るにはものすごい。手児奈とものすごく同じ方向に駆け出して、ものすごくすれ違う人々をかきわけて、次の信号まで先回りしようとする。タイミングがものすごく悪く赤に変わる。ものすごくあせる喜三郎の目の前を手児奈がものすごく通り過ぎて行く。
「おい」
 ものすごい叫びをあげて走って行く喜三郎はものすごかった。ものすごい歩道橋をものすごい三段抜かしで駆け上がり、ものすごく細い橋の上をものすごい通行人を突き飛ばしながら走り抜け、向こう側でものすごい下を見ると手児奈のものすごい頭の上が見えた。
「手児奈」
 ものすごかった。喜三郎はものすごく一気に飛び降りた。そのものすごさにものすごく驚いて見上げるものすごい人々。ものすごい足から着地はしたが、ものすごい勢いでものすごい前につんのめると、ものすごく転がった。
 ものすごく体を打って喜三郎はものすごいうめき声を上げた。手児奈はものすごくちらりとそれを見て、さすがに立ち止まった。
「て……こ……な……」
 ものすごく回りに集まる野次馬たち。ものすごく立ちつくした手児奈のものすごい驚きの表情は、ゆっくりとものすごいあわれみのまなざしに変わっていった。ものすごくそしてものすごい向きをものすごく変えて、ものすごい人混みのものすごい中へものすごい姿をものすごく消していった。
「な……ん……で……」
 ものすごくよろよろと立ち上がる喜三郎の目に手児奈はもうものすごく見えなくなった。町の広さがものすごかった。とてつもなくものすごかった。どうしようもなくものすごかった。

      [ものすごい完]




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