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「弥三郎」
「はっ」
「有楽斎殿が宗易殿に聞いてこられたには、やはり穴は真四角だそうだ」
「なるほど」
「で、畳の右上の隅に空くそうな」
「心得ました。早速越後屋に伝えて参ります」
「よいな、右上の隅だぞ」

「喜三郎殿」
「なんだ」
「越後屋がまた訪ねて参りまして、隅の穴というのは隅ぴったりに作るのか、それとも少し離して作るのかと畳職人から質問があったそうです」
「というと、どういうことじゃ」
「つまり、畳の一つの隅が完全にえぐれた形のものを作るのか、それとも畳はやっぱり長四角で、中に四角の穴が空いたものを作るのかと言う話なのですが」
「ふむ。えぐれた形と言うと、どういう形じゃ」
「えー、例えて言うと、そうですね、煎餅をかじったような形」
「歯形が丸く残るではないか」
「ですから、歯並びが四角い人がいたとして、その人が煎餅をかじったような形」
「なんだかよくわからんが、言いたいことはなんとなくわかった。それとあと一つは」
「えー、例えて言うと、えー、内側から煎餅をかじったような形」
「内側から煎餅がかじれるか」
「まあ、かじれませんが、かじったとして」
「ふむ。ふむ……ああ、なるほど、そういうことか」
「おわかりいただけましたか」
「そりゃあ畳だもの、長四角であろう」
「というと、内側から煎餅をかじったような形」
「じゃないかなあ。と思うよ」
「本当ですか」
「ああ、じゃあ、有楽斎殿に尋ねてみる」
「よろしくお願いいたします」

「弥三郎」
「はい」
「こないだのはわしの間違い。悪かった。やはり、右上がえぐれた形だそうだ」
「といいますと、煎餅を外側からかじった形ですな」
「そう。で、炉の大きさは一尺五寸四方だそうな」
「一尺五寸四方」
「さように越後屋に申し伝えい」
「ははっ」

「喜三郎殿」
「なんだ」
「畳の形の件越後屋に伝えましたところ、これで仕事にとりかかれるとのことでたいそう喜んでおりました」
「うむ。そうか」
「いろいろお手数をおかけいたしました」
「いやいやそなたこそご苦労であった。あとは畳ができるのを待つだけだな」
「まことに」

「喜三郎殿」
「うむ?」
「実はさきほど越後屋が参りまして、畳職人から質問があったそうで」
「うむ」
「畳のへりをどうしようかとの問いかけにございますが」
「へり?」
「つまり普通ですと畳の長い方の二箇所にへりが付くのですが、今回の畳は変形ゆえいかが取り計らいましょうとのことで」
「付ければよいではないか」
「いやそれはもちろん付くのですが、普通の畳ですと縁が四つありますな」
「あるな」
「ところがこの畳は切り欠きがありますから、縁が六つになりますな」
「ん?ひぃ、ふぅ、みぃ、よぅ、いつ、なるほど」
「で、畳職人の申しますには、へりは畳の目と交わる向きに付けるのだそうです」
「ふむ」
「ですのでこの場合も切り欠きによってできた縁のうち、畳の目と交わる方に付けるのがよろしいのではないかとの話なのですが」
「うむ。それでいいのかなあ」
「いかがでしょう」
「……うむっ」
「はっ」
「有楽斎殿に相談して参る」
「ははっ」


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