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「弥三郎」
「はい」
「有楽斎殿に相談したところ、有楽斎殿も迷っておられた」
「はあ」
「とどのつまり、宗易殿に尋ねてみるとの仰せであった」
「さようですか。では越後屋にそう申して参ります」

「喜三郎殿」
「なんだ」
「越後屋から、例の畳のへりの件はどうなったかとのお尋ねがありましたが」
「おおそれそれ。有楽斎殿に宗易殿の意向を尋ねたところ、宗易殿もそれでよいのではないかとおっしゃっているとのことであった」
「さようですか」
「そのように越後屋に答えてやれ」
「かしこまりました」
「いや、今度こそこれで畳ができるのを待つばかりだな」
「まことに」

 ようやく茶室もできあがりが近づき、いよいよ畳を入れる日になった。
「喜三郎殿、喜三郎殿」
「どうした」
「えらいことです」
「だからどうした」
「畳が入りません」
「なに?」
 大急ぎで茶室に駆けつけてみると、職人が小さなにじり口から畳を入れようと四苦八苦している。
「あの、なんで、この部屋はこんなに入り口が小さいのでしょうか」
「入り口の話なぞ聞いておらんぞ」
「とにかくこれでは畳が入りません」
「ちょっとまて、有楽斎殿に尋ねてくる」
「ははっ」

「あのな、有楽斎殿に聞いたら」
「はっ」
「それが宗易殿おっしゃるところのわびさびだそうだ」
「なんですかそりゃ」
「とにかくなんとしてでも畳を入れろ。えーいそこの障子をはずしてみろ。そしてそのまま斜めに、この際障子の桟の一本や二本壊してもかまわん、後で直しとけ。よしそのまままっすぐ、もう少し右だ、ほら、入ったじゃないか」
「喜三郎殿、畳が入りません」
「入ったじゃないか」
「いえ、床に入りません」
「なにっ?」
 見ると畳の入っていない床には炉が右上に据え付けられており、畳には左上に切り欠きがある。
「これはどうしたことじゃ、あれほど右上を切り欠くのだと申したでは……ちょっとまて、畳ってどっちが上なんだろう……どっちだ。長いほうか、短いほうか」
「さあ」
「それがわからんことには有楽斎殿に報告もできん」
「確認して参りますっ」

「喜三郎殿っ」
「うむっ」
「越後屋を通じて畳屋に確認したところっ」
「うむっ」
「平べったいほうが上だそうです」

     [完]




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