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 扇風機の羽根が回転を始め、心地好い風が吹いてきた。と同時に扇風機自体もゆっくりと回転を始めた。
「なるほど、考えたな」
「はい、苦労しました」
「くっ」手児奈が扇風機を喜三郎に向ける。
「こりゃいい。ああいい風だ……ああいってしまった」
「どうしても、回転してますので」
「ふすまに向かって吹いておる」
「完全にむこう向いちゃいましたね」
「そらっもうすぐだ、ああ来た来た、ああいい風だ……いってしまった」
「やはり、この、風が来る時間が短すぎるでしょうか」
「ひっ」手児奈が扇風機を弥三郎に向ける。
「そうさな。これだと風が来る時間はほんのちょっとで、あとはとんでもない方向をあおいでいる」喜三郎がかぶりを振った。
「いい思い付きだと思ったのですが」弥三郎が残念そうに首を振った。
「なんか、あと一歩のような気はするんだが、どうもなあ」喜三郎が首を振った。
「ものすごく近いところまで来てるような気はするんですけど、なんだかねえ」弥三郎が首を振るのを喜三郎はじっと見ていた。
「たっ」手児奈が扇風機を喜三郎に向ける。
「それだっ」喜三郎の声が急に大きくなった。「これだよ、これ」喜三郎は首を突き出すと大きく横に振った。
「これ?」弥三郎も首を横に振った。
「そう。この往復の動き。左右に動かすんだ」
「左右に?」
「まあ見てなさい。部品はあるかね。歯車と、ああそれで結構。このねじをもらうよ」

 そして半日。喜三郎の扇風機ができあがった。
「これこそが、みんなが涼しい扇風機だ」
 喜三郎がスイッチを入れた。
「ぶるん」扇風機には一枚の大きなうちわが取り付けられている。そのうちわが、右から左に大きく弧を描いた。
「ぶるん」うちわは、逆に左から右に大きく弧を描いた。
「ぶるんぶるん」うちわは左から右へ右から左へ、ばたばたと二人をあおぎ続けた。
「ああいい風だ」
 満足そうな喜三郎。
「おっ」手児奈が扇風機を弥三郎に向ける。

     [完]




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