PAGE 2/2
「なんだってね、この芝居は幽霊の芝居だってね」
 幽霊の芝居は昔から三本松座の得意とするところなのだ。弥三郎はうれしそうに楽屋を引っかき回すと、小道具一式を探しだし、稽古場に持ってきて準備させた。
 稽古場では喜三郎扮するハムレットが父王の仇の国王を殺すかどうか悩んでいる。するとふっと明かりが消えて下手から青白い人魂が一つ、二つ。父王の亡霊が頭に三角の布を付け、白い衣装を着て音もなくあらわれる。
「はむれっとー。はーむれっとお」
「ちょっと待ってよ」ハムレットがかつらを脱ぎ捨てた。「弥三郎さん、なんだよ、この幽霊」
「ん?いい幽霊だと思うけどなあ」横でみていた弥三郎が答えた。
「これじゃ四谷怪談だよ、あちらの芝居なんだから幽霊もあちらの格好でなきゃ」
「だって、この格好でなきゃ幽霊だかなんだかわかんねえじゃねえか」
「いいんだよちゃんと幽霊だと台詞でいうんだから。これじゃ変だよ」
「そうはいっても……あっ」
「どうした」
「この幽霊変だ」
「そうだろう、」
「足がある」
「いいの、向こうの幽霊は足があるの」
「そんなこといってお前さん向こうの幽霊見たことあんのかい」
「こっちの幽霊だってねえよ……いいから、ね、弥三郎さん。これは新しい芝居なんだから」
 どうにか弥三郎を納得させて稽古は再開された。父王の亡霊はハムレットに、自分を殺して王位を奪った現国王と裏切り者の王妃を殺して仇を打つよう頼む。真相を知ったハムレットは苦悩する。
「なすべきか、なさざるべきか」
「ちょっと、ちょっと」
「ちょっとなすべきか、いっぱいなすべきか」
「ちょっと、喜三郎さん、ちょっと」
「それが問、あーっもう弥三郎さん稽古中に話しかけないでよ」
「ちょっと、いいから、来てよ」
「なんだよ」
「喜三郎さん、この芝居ダメだよ」
「ダメ?ダメってどういうことだよ」
「どう考えてもおかしいよ」
「おかしいって、何がおかしいんだよ」
「あの幽霊おやじさあ、国王のところになんで自分で化けてでないの」

     [完]




ぜひご意見ご感想をお寄せ下さい。(ここのボタンを押していただくだけでも結構です)
*.前頁
#.次の作品
0.Vol.1に戻る