PAGE 1/1
大型近未来小説「手」
第9回 宝石には手がいる

 これが宝石業界になると逆の論理が成り立つから恐ろしい。
「ヒ・ロ・く・ん」
「なんだいユッコ」
「もうすぐね、わたしたちの結納」
「そうだね」
「婚約指輪とかもう決めた?」
「ううん、まだなんだ」
「あたしねえ、やっぱりダイヤがいいな」
「そうだね、ダイヤがいいかもね」
「あんまり高いのでなくていいの」
「うん、でもよく『婚約指輪は給料の三ヵ月分』っていうしさ、やっぱそのくらいはね」
「ほんと?うれしいっ」
「そりゃユッコのためだもん」
「でねー、第二手はサファイア」
「……は?」
「だってやっぱり誕生石だもん」
「……ちょっと待って、なに、第二手って」
「知らないの?いまは『手の数に応じて』っていうのが目安なのよ」
「知らなかった……」
「それからね、第三手はオパール」
「給料って、手取りかな額面かな」
「え?」
「いや、こっちのこと……」
「そんでね、第四手はエメラルドにしてね」
「……ユッコの手は四対しかないな。三かける四、ちょうど給料一年分か。……定期を解約すればなんとかならないこともないな」
「そんな、無理しなくてもいいのに」
「大丈夫。おれも男だ。ユッコのためなら、そのくらいなんでもないよ」
「ほんと?ヒロくんだーい好き!」
「まかせなさいっ」
「いまのが左でね、右第四手はルビーがいいな」
「ふわあ……」
「ちょっとヒロくん、やだ、ヒロくんったらあ、おきてよ」
      (続く)

*.前章
#.次章
0.戻る