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 不審な視線を手児奈に向ける母親にはお構いなく、子供は手児奈に笑いかけた。
「うん、鉄橋大好き」
「ほんと?おねえちゃんも鉄橋大好きなんだ」
 二人は一緒に窓の外を見て、鉄骨の一本一本を目で追った。鉄橋を通り過ぎると、子供は満足したように窓から目を離し、手児奈の方を向いた。
「ねえおねえちゃん、遊ぼうよ」
「うん、なにして遊ぼっか」
「ずいずいずっころばし」
「うん、やろやろ」
 二人は歌いだした。
「ずいずいずっころばし、ごまみそずい」
(そう、これが歌の心なんだわ。ずいずいずっころばすのよ。ただの味噌じゃないのよ。ごまみそよ)
「ちゃつぼにおわれてとっぴんしゃん」
(茶壷に追いかけられたら恐いでしょうね。だからとっぴんしゃん……てのはつまり……とにかく、とっぴんしゃんなのよ)
「ぬけたらどんどこしょ」
(だから、抜けて、抜けるって何を抜けるのかな、えっと、だから、どんどこしょ)
「たわらのねずみがこめくってちゅう」
(これはわかる。昔は鼠もごろごろいて、俵もごろごろあって、米もごろごろはいってて)
「ちゅうちゅうちゅう」
(ちゅうちゅうちゅう)
「おっとつぁんがよんでもおっかさんがよんでもいきっこなしよ」
(そうよ。やっぱり親から自立しないとダメよ)
「いどのまわりでおちゃわんかいたのだーれ」
(書いたのか欠いたのか知らないけど、お茶碗だから欠いたんでしょうね、だから鼠がずいずいすっころばすから、おっかさんが茶壷を呼んで、抜けたら井戸の回りで、どんどこしょで、欠けた茶碗で胡麻味噌おかずに米食って、だから、つまり、その、とっぴんしゃんなのよ)

 こうして手児奈の「歌の心」はずいずいずっころばしの前に敗退した。

     [完]




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