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「おーご苦労さん」
「杉野森さん、やっぱりタブのない缶なんてできるわけありませんよ」
「付け忘れたんじゃないの」
「あんなもの後から取り付けるわけないじゃないですか。最初からタブ付きの蓋を作っておいて、後からはめるんですよ」
「じゃあ、そのタブ付きの蓋がただの蓋だったんだ」
「だって製缶工場から受け取るときだってチェックしてますし、完成品だって検査しているんですよ」
「でもあれだけいっぱい作ってるんだから、紛れ込まないとも限るまい」
 二人が言い争っているところに受付から電話がかかってきた。
「松本さんという方がお見えですが」
「あー、来たか。応接室にお通して」
 応接室に向かう杉野森を梅田が追いかけた。
「私も行っていいですか」
「いいけどね、余計なこと言うんじゃないよ。クレームに対処するには、丁寧に、しかしきっぱりと、だ」
 応接室にいたのは予想していたよりずっと若い男だった。
「お初にお目にかかります、私お客様相談室の杉野森ともうします」
「あ、どうもはじめまして」
「こちら生産管理を担当してます梅田です」
「梅田ともうします」
「松本っす」
「このたびはご足労をおかけしまして申し訳ありませんでした。商品は早速お取り換えいたします」
「わあ、すみませんわざわざ」
「それからこれはご迷惑をおかけしましたのでお詫びのしるしです。当社のコーヒーの詰め合わせです」
「わお、こんなの貰っちゃっていいんですか。ありがとうございますぅ」
 どうも予想していたのとは雰囲気が違う。
「それでお客様のお買い求めになった品物なのですが」
「あ、これっすか?いやー僕もびっくりしちゃってこんなの初めてだから」
 喜三郎はテーブルに缶を置いた。ラベルが逆さまになっていて、底に製造年月日が刻印されているのが見える。梅田はそれを上下逆にした。反対側もつるんとした金属面であった。
「はあ……」
 梅田はまだ信じられないように缶を何度も逆さまにしている。杉野森にしても見るまでは何かの勘違いではという思いが多少あったのだが。
 杉野森は深々と頭を下げた。あわてて梅田も頭を下げた。
「まことに申し訳ありませんでした。以後このようなことのないように品質管理に努めて参りますので、今後も当社製品をよろしくお願いいたします」
「あ、そーか」
 喜三郎のすっとんきょうな声に二人は顔を上げた。
「缶切り使えばいいんだ」

     [完]




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