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大型相撲小説
昭和七十六年宇宙の旅
佐野祭

「日本の伝統スポーツ大相撲も、ついに宇宙に飛び出しました。大相撲ファンの皆様こんにちは、大相撲宇宙場所初日のもようをここ三本松宇宙ステーション特設国技館からお送りいたします。解説はいつものように、手児奈親方です。親方よろしくお願いします」
「よろしく」
「親方、この宇宙場所のみどころはどんなところでしょう」
「まあやはり無重力状態の中でどのような相撲が展開されるか。この点でしょうね」
「さあ、注目しましょう。東方より琴松本が土俵に上がりました。対する西方は杉野森。いま、琴松本が足を高々と上げて四股をふんで……飛んでっちゃいましたね」
「無重力状態ではね、あまり反動をつけない方がよいですよ」
「琴松本、なんとか戻ってきました。いま力水をつけてもらいま……これはいけません。琴松本のはきだした水が水玉になってぷかぷかそこらじゅうに浮いてますね」
「これは慣れないと難しいんですよ」
「琴松本気をとりなおして、肩を二回三回とまわして塩を……まかないほうが良かったですね」
「こうなることは当然わかってたでしょうにね」
「呼び出しが空中を掃除しております。さて、琴松本下がりを分けて、ええ……だいぶ手間取ってるようです……やりにくそうですね」
「普通まわしからぶら下がっているから下がりと言うんですけどね」
「これでは上がったり下がったりですね。さあ時間いっぱい仕切りに入ります。両者手をついて、おっといけない、手をつこうとしたら足が上がってしまった。さて足を地につけて、おや今度は手が浮いてしまう。どうもいけませんね」
「一刻も早い立会いの正常化が望まれますね」
「やっと両手両足が地につきました。さあ行事の軍配が返った、杉野森突っ張る突っ張る突っ張る突っ張る突っ張る、おっと両者反対側に吹っ飛んだ」
「いわゆる作用反作用の法則というやつですね」
「無重力ではふんばりが効きませんねえ。しかしこれは取り直しです。両者手をついて……多少慣れたようです……立った、がっぷり四つに組む」
「杉野森の上手がきれてますね」
「つるっ」
「琴松本得意の吊りですね」
「杉野森もつるっ」
「なかなか負けてませんね」
「琴松本もっとつるっ」
「もう完全に宙に浮いてるんですけどね」
「杉野森負けじとつるっ」
「土俵の外に出てるんですけどね」
「琴松本つるっ」
「地面についてない以上しょうがないですね」
「両者つるっ」
 いま相撲協会では、大相撲海底場所を企画中である。

     [完]




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