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「今どんな音送ったの」
「tada.wav」
「ただわぶ?何それ」
「ほら、windowsが立ち上がるとき音するだろ、ジャジャーンって、あれ」
「ジャジャーンって、あれ?やだ、もうちょっと気の利いたものにしてよ」
「いいじゃない、いかにも『ジャジャーン、沸いたよーん』って感じで」
「だってさ、これからさあ二人でゆっくりお茶を飲もうねとか、一緒に晩御飯だよとか、そういうときにかかるんだよ。ジャジャーンじゃさ、さて仕事始めるかって感じじゃん」
「そうかなあ」
「そうだよ。もっと、ワクワクドキドキの音ってないの」
「ワクワクドキドキねえ」
「ねえ、そのわぶふぁいるっての、自分で作れないの」
「まあ、できなくはないけど」
「だったらほら、もっと楽しい音にしようよ」
「俺は別にジャジャーンでもいいけど」
「だってそんなありきたりの音じゃなくて、もっと自分を表現したいと思わないの」
「別にヤカンで表現したくはない」
「だから表現したいったら大げさだけど、なんつーの、彩り?暮らしの中にさ、わわっ」
「驚いた、結構大きな音だな」
「ほら、これ変だよお」
「確かにジャジャーン、ジャジャーンってしつこいなこれ」
「だからなんか他の音入れようよお」
「いいからまず火を止めてこい。そうねえ、ヤカンの沸く音……ヤカンが沸く……ヤ。カーン……。ヤカ。ンー……」
「何ぶつぶついってんのよ」
「思いつかん」
「ねえねえ、こういうのどうかな。まずね、初めは静かなさざ波のように始まるの」
「ふむ」
「そう、まだ万物の誕生する前の世界ね。それがだんだん激しくなって、海が荒れ狂ってきます」
「ふむふむ」
「荒れ狂って荒れ狂って何もかもを飲み込むように嵐が最高潮に達した、そのとき。一筋の光が射すの」
「ほう」
「その光はゆっくりと拡がってやわらかにカオスを飲み込んでいって、辺り一面をかぐわしい香りが包んで、……で、お茶が沸いたよと」
「なるほどねえ。さざ波が嵐になって、光が射して、かぐわしい香りか」
「どう、こんな感じで」
「で、それってどういう音なんだ」
「それをあなたが作るんじゃない」

     [完]




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