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 地べたにかがみこみ、雪を一すくい取って雪玉をこさえる。さらにもう一すくい取って、一回り大きな雪玉にする。あまり雪玉作りに時間をかけているとその間に相手に攻撃される。このくらいにしておこうと、雪玉を持って立ち上がってその雪玉を、さてどうしようと考えた。
 しばらく雪玉を持っていたがふと思いついた。そうだ。壁打ちだ。
 喜三郎はその雪玉を思いっきり駐車場横の壁に投げた。しかし、テニスのボールと違って雪玉は跳ね返ってこない。そうか、雪玉は柔軟性がないから跳ね返らないんだな、これは大事なことだとかばんから手帳を取り出して最後に書いたページを拡げて書き足した。
「壁打ち雪合戦はあまり楽しくない」
 かばんに手帳をしまいながら、なんで俺はこんなことをメモしてるんだろうと思ったが、なにしろ寒さで思考力が低下しているので仕方がない。
 しかしよく考えると壁打ちばかりが一人テニスではない。素振りだって一人でやる。野球でいえばシャドウピッチングだ。そうかまんざら思考力も低下してばかりでもない。早速喜三郎は新たなる雪玉を作るとなんどもシャドウピッチングを繰り返した。
 しばらく充実していたが、よく考えるとあまり雪玉を持っている意味がないことに気づきやめてしまった。
 しかし野球でもよく真上に投げ上げてまた取るというのを一人でやるではないか。そうだ真上にあげれば同じところに落ちてくるのだ。早速喜三郎は新たなる雪玉を作ると真上に投げ上げた。
 雪玉は高く上がってスピードを緩め、下に向かって落ちはじめてそのまま喜三郎の頭を直撃し、四方八方に砕け散った。そうだこれでいいんだ、雪合戦らしくなったじゃないかと喜三郎は何度も雪玉を投げ上げて頭で受け止めた。
 さらに雪合戦らしくするにはどうしたらいいか。雪合戦で肝腎なのは、いかに相手の雪玉をよけるかである。よし、今度は避けてみようと喜三郎は頭上に雪玉を投げ上げて素早く飛びのいた。
 雪玉は喜三郎が立っていたあたりの地べたに当たって砕け散った。
 喜三郎はもう一回雪玉を作り、投げ上げる。落ちてくるところを素早く避ける。何度か試してみたが、どうもこれ避けてしまうとあまり楽しくない。
 喜三郎は座り込んで考え始めた。よけてしまうと面白くないが、かといって避けないと雪合戦にならない。はてどうしたものか。雪玉に当たらないことには勝負がつかないではないか。待て、そもそも雪合戦というのはどうなったらどうなったら勝負が決まるのだ。サッカーのようにゴールがあるわけでないし、バレーのようにネットもない。カバディのように声を出す訳でもないし、マリンバのように楽器でもない。いかん。だいぶ思考力が落ちている。雪合戦といえば、壇ノ浦である。桶狭間だったかな。で、真上に投げ上げると落ちてくるけど、これはニュートンが万力を発明したからであって、それまでの人は万力がないので苦労したのだ。だから、サッカーのようにゴールはないし……。

 目が覚めると、なにやら回りがにぎやかである。意識がはっきりしてくるにつれ、どうやら自分を取り囲んでいるらしいと気がついた。警官が自分の顔をのぞき込んでいる。ゆっくりと起き上がりだがしかしちんぽこ丸出しでないことを確認し、話しかけてくる警官に答えた。
「なんでもありません。雪合戦をやってただけです」

     [完]




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