大型SF小説

アンドロイドの街

佐野祭


 国際警備隊日本支部三本松地区第一分隊隊員・杉野森ヤサブローは、駅前の喫茶店「メコン川」で隊長の松本キサブローを待っていた。どうやら、かねてより地球を狙っているテコナ星人に、何か動きがあったらしい。
「待たせたな」キサブロー隊長の声だ。
「どうしたのですか、やはりテコナ星人が……」
「しっ!」キサブローが制した。
「そうなんだ、やつらついに動き始めたんだ。テコナ星人は人間そっくりのアンドロイドをつくって、地球に大量に運びこんだんだ」
「アンドロイド?」
「うん。この街にもすでに人間のふりをしたアンドロイドがまぎれこんでいる。一刻も早く見つけだして、破壊しなければならない」
 ヤサブローは、何でこんな重要な話を喫茶店でやるのかなと思った。しかし根が気弱な彼は、上司にそのことをつっこむ勇気がなかった。その気配を察したのか、キサブローが言った。
「実はもう基地にもアンドロイドがまぎれこんでいるんだ。基地から盗聴器がうじゃうじゃ見つかった」
「基地にまで……」
「そうだ。そのくらいやつらは人間そっくりなんだ。外見はもちろん、体の内部まで人間と区別がつかない」
「じゃあ、見つけて破壊するといっても、どうやって見つければ……」
「そこだ。いかにそっくりとはいえ、しょせんはアンドロイド。心の中までは似せられない」
「といいますと」
 キサブローはおもむろに梨のジュースをすすり、答えた。
「人間と他の生き物の違いは何か。人間は笑う。やつらと人間の違いはユーモアのセンスがあるかないかだ。こればかりはアンドロイドにはどうにもならない」
 ヤサブローはなるほどと思った。そこでさっそくアンドロイド狩りに出かけることにした。キサブローは伝票を手にすると、レジに向かった。
「アメリカンと、梨のジュース。九十クレジットいただきます」店員の無機質な声が響いた。
 キサブローは一瞬眉をひそめた。そしてヤサブローに「試してみよう」とささやき、店員に向かって言った。
「豚がぶ・っ・た」
 店員はニコリともしない。それを見るやいなやキサブローは内ポケットから電子銃を取り出し、閃光一発、店員は静かに崩れ落ちた。
「危ないところだった」キサブローは銃をしまいながら言った。
「さあ、急ごう、杉野森君。この分ではこの街にもかなりのアンドロイドがいるに違いない」
 店をでると、そこでは占師が店をひろげていた。キサブローはヤサブローにそっと合図すると、近づいて話しかけた。
「猫がね・こ・ん・だ」
 占師はキョトンとしている。それを見るやいなやキサブローは内ポケットから電子銃を取り出し、閃光一発、占師は静かに崩れ落ちた。
「見たかね、彼らの表情を。くすりともせん。人間なら考えられんことだよ」
 ヤサブローは何かひっかかるものを感じていたが、根が内気なため、それを上司に進言することはできなかった。
 公園の風船売り、学校帰りの高校生、交番の警官。喜三郎はありとあらゆる人に声をかけた。「猿が去る」「犬が居ぬ」「蛙が帰る」……そのたびにキサブローの電子銃が火を吹いた。
 もう日はとっぷりと暮れていた。この様子だとアンドロイドはいったい何人いるのかわからない。華やいだ夜の街を歩きながらキサブローは、今度は「狸」で何かしゃれができないかなと思いつつ新たなる戦いへの闘志をわきたたせるのだった。

[完]


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