大型生活小説

柿の種の分離

佐野祭


 ふと気がつくと柿ピーの中のピーナッツだけを選んで食べていたという経験はないだろうか。
 ご承知の通り、柿ピーは柿の種と呼ばれるあられとピーナッツを混合させたスナックである。この柿の種とピーナッツを家庭で手軽に分離する方法があると聞いて、家事評論家の松本喜三郎さんにお話をうかがった。
 松本さんはまず大柄の機械を見せてくれた。遠心分離機という機械らしい。そういえば健康診断の血液検査で見たことがある。
「遠心分離機の原理は簡単です。遠心力で分けるのです」
 それではあまりに簡単過ぎる、もう少し読者にわかるように(というか記者にわかるように)説明してもらえないかと頼むと松本さんは丁寧に説明してくれた。
「混合した二種類の物質を分けるのにはいろんな方法があります。よく利用されているのは大きさの違いを利用する、ざるの原理ですね」
 しかし液体だとか、固体でも柿ピーのように粒同士の大きさがほぼ同じものに対しては使えない。
 そんなときに利用されるのが比重の違いだそうだ。ドレッシングを置いておくと油は水より比重が小さいので油の部分がだんだん上にたまってくる、あの原理だ。
「それを重力より強い遠心力を使って、素早く分離しようというのが遠心分離機です」
 さっそく柿ピーの入った容器を遠心分離機にセットする。スイッチを入れると遠心分離機は高速で回転を始める。
「そろそろいいでしょう」
 スイッチが切られ遠心分離機の回転が完全に止まったところで容器をはずす。蓋を開けると、きれいに片側に柿の種が集まっていた。
 ふと疑問に思ったが、柿の種を分離してどうするのだろう。尋ねると松本さんは答えた。
「柿ピーはそのままでは柿ピーにすぎません。しかし分離すれば、柿の種として、あるいはピーナッツとして、混ぜればまた柿ピーとして、三倍楽しめるのですよ」
 なるほどそれはお得だ。しかし遠心分離機は一般の家庭にはない。そこで松本さんは遠心分離機の代わりに、家庭にある洗濯機で手軽に分離できる方法を研究している。
 まず第一に注意しなければならないのは、柿ピーを袋のまま洗濯機にセットしないことだそうだ。
「袋が破れて洗濯機中に柿ピーが飛び散る危険があるのですよ。故障の原因になるだけでなく、洗濯物のなかに柿の種が紛れ込むことがあります」
 いやだ。柿の種入りのパンツははきたくない。
「ご家庭ではタッパを利用するとよいですね」
 ただ、タッパでも蓋が外れて中身が飛び出す恐れはあるそうだ。そのため粘着テープを使って蓋が外れないようにしっかりと固定する。
「このときガムテープを用いますと、タッパにくっつき跡が残ることになりますし、はずすときに力が入り過ぎて柿の種があたり一面に飛び散ることになりかねません。はがしやすいテープが市販されていますので、そういったものを利用されるとよいでしょう」
 また、洗濯機の中に置く位置も問題だそうだ。
「よくやりがちなのが洗濯機の真ん中に置いてしまうことなのですが、実は真ん中というのはほとんど遠心力は働かないのですよ。洗濯漕の壁にとりつけるのがもっとも望ましいのです」
 タッパを壁にとりつけるのは難しそうに思えるが、大きめの屑とりネットの中にいれるか、入らなければぶらさげてしまえばよいそうだ。ぶらぶらしそうであるが、遠心力でタッパは自然に壁に張りつくのだ。
 さあ、さっそく分離だ。洗濯機が回転を始める。
「通常でしたら30分ほど回しておけばよいかと思います」
 洗濯機によって必要な回転時間は異なるので、様子を見ながら何回か繰り返してみるとよいそうだ。
 やがてブザーとともに洗濯機が止まった。さっそくはずしてみる。
 タッパを開けると、きれいに柿の種とピーナッツが分離されていた。
 最後に家庭で分離するときの注意点を尋ねると、松本さんは少し考えて答えた。
「自動注水にしないことです」

[完]


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