大型結婚式小説

キャンドルオプション

佐野祭


「お色直しの際のご入場は、キャンドルサービスになります」
 ここは、結婚式場黒姫山。式場係の杉野森主任の差し示すカタログを食い入るように見つめる喜三郎と手児奈であった。
「3種類のキャンドルをご用意しておりまして、どのタイプでもお客様のお好みに合わせてお選びいただけます。こちらのAタイプが通常の蝋燭ですね」
 杉野森主任はカタログを指さした。
「Sタイプになりますと、蝋燭の色が7色に変化いたします。そしてSSタイプですと」杉野森はカタログをめくった。「この写真のとおりですね、点火と共にそれぞれの蝋燭から花火があがるようになっております」
「わーっかわいいーっ」手児奈が声を上げた。
「ねえ、喜三郎、どれにする」
「うーん、手児奈はどれがいい」
「7色もいいんだけど、やっぱこの花火もすてきだし、でもお値段が倍近く違うんだよね」
「そうだよなあ……あの、どのタイプが一番多いんですか?」
「それはもうお客様のお好みによってそれぞれなのですが、Sタイプをお選びになるお客様が多いようです」
「そうか、じゃあ、Sタイプにしよう」
「うん」
「ありがとうございます。当式場ではオプションとして、『悪のりして騒ぐ悪友セット』をご用意しておりますが、こちらの方はいかがでしょうか」
「……は?」
「キャンドルサービスを盛り上げるには最近どちらの結婚式を拝見しましても欠かせないようですね」
「あの、それは、どんなことをするんでしょ」
「まずこちらのBタイプですと、蝋燭の芯を濡らしてなかなか火がつかないので喜ぶことになっています」
「……それはよくあるよね」
「当式場ではお客様の個性に合わせて様々なタイプをご用意しております。Aタイプになりますと、蝋燭の芯をハサミで切ってしまいます」
「それじゃ火が着きにくいでしょう」
「なかなか着きませんので、何度も音楽をかけ直したりしてそれはもう大変です」
「はあ。このSタイプというのは何ですか」
「蝋燭の芯に生クリームがべっとりと付いています。あと、こちらのSBタイプですと、火をつけようとすると蝋燭がありません。お二人で蝋燭を探し回って、それはもう大騒ぎです」
「ねー喜三郎、SタイプとSBタイプってどっちが上なの」
「値段の高いほうじゃない。このSAタイプってのはどういうんですか」
「SAタイプですと、蝋燭が友人の頭の上に乗っています」
「うーむ。さすがにそれは見たことないな」
「まじめな顔をして燭台を頭に載せている友人がこれが見ものなんです。さらに当式場自慢のSSタイプですと、蝋燭に爆竹が仕掛けてありまして大音響で鳴り響きます」
「それは派手な」
「親戚の皆さまが顔をしかめながらも笑い転げること請け合いです。いかがでしょう」
「うーん、これ、オプションなんですよね」
「はい、でもたいていの方がお選びになってます」
「自分たちでやるってのはできないんですか」
「持ち込みの場合ですと、持ち込み料をいただくことになっております」
 喜三郎と手児奈は小声で相談を始めた。
「手児奈どうする」
「うーん、持ち込み料取られるのもばかばかしいし」
「そうだなあ。真ん中にするか」
「真ん中って、6個だよ」
「じゃあ、真ん中の上」
「っていうとSBタイプ。蝋燭がないってやつ。いまいちね、これ」
「そうかあ。俺は面白いと思うけどな」
「ちゅーか、私たちらしくないと思うんだ、これ。やっぱり、私が考えていたのは、そんな派手じゃなくても、ほんわかした結婚式、そーゆーのがやりたかったわけ。だから、これよりはどっちかっていうと生クリームべっとりかなって思うわけ」
「だってさ、生クリームべっとりなんて水で濡らすのと大して変わらないじゃん」
「水と生クリームじゃ違うよ。やっぱ、生クリームっていうと家庭的なイメージでしょ?蝋燭がないなんて単なるドタバタじゃん」
「いーじゃんドタバタ、俺はそういうの好きだぜ」
「だってこれ結婚式なのよ、ドタバタなんていやよ」
「だって結婚式自体がひとつのドタバタみたいなもんなんだから、ぴったりくるるじゃないか」
「喜三郎は私との結婚をそんな風にしか考えてないわけ」
「誰もそんなこと言ってないだろ」
「あの」
 杉野森がおだやかに口を挟んだ。
「なんでしたら一つのテーブルでSBタイプ、もう一カ所でSタイプという形式にもできますが」
 喜三郎と手児奈は声を揃えた。
「それ下さい」

[完]


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