大型量販店小説

早く電話をとれ

佐野祭


(ベル)
「本日はドッサリ電気にご来店くださいましてまことにありがとうございます。お客様にお願い申し上げます。当店の電話が鳴りましても、お取りにならないようにお願いいたします」
(ベル)
「はいもしもし」
「7Fですけど、松本主任お願いします」
「少々お待ちください。……あのう、お嬢さんすみません」
「はいいらっしゃいませ」
「松本さんって人に電話ですなんけど」
「ああっ申し訳ありません。主任、主任」
「呼んだ」
「電話ですけど」
「誰から」
「それがお客様がお取りになったので」
「ええっまた。はいはい今行きます」
「すみません、KI3−Roください」
(ベル)
「かしこまりました。色は白と青がありますがどちらにいたしますか」
(ベル)
「白ください」
(ベル)
「在庫を調べますので少々お待ちください」
(ベル)
「はい、もしもし」
「2号店ですが、松本主任お願いします」
「はあ。あの、松本主任って方は」
「えっ。あ、あ、主任、電話、主任」
「あ、お客様どうもすみません、はい松本です」
「申し訳ありません。で、白と青どちらでしたっけ」
「白です」
「少々お待ちください。……梅田ですけど、そちらにKI−3Roの白ありますか」
「は?」
「KI−3Roの白です」
「んー、よくわからないや。あのね、KIなんとかの白あるかって」
「ああっ申し訳ありません。お電話変わりました杉野森です」
「……今の誰」
「お客様」
「またあ」
(ベル)
「で、なんだって」
(ベル)
「KI−3Roの白。そっちに在庫あります?」
(ベル)
「んー、じゃあ調べて折り返し電話するから」
(ベル)
「はいもしもし」
「よろしく。……恐れ入ります、ただいま在庫を調べてますのでどうぞお座りになってお待ちください」
「あのー、松本主任って人に電話ですけど」
「あああっすみません。しゅにーん、松本主任」
「なにー」
「電話ですぅ」
「あああっ申し訳ありません。はい松本です」
「あの、すみません」
「はいいらっしゃいませ」
「実は昨日弟夫婦が遊びに来まして」
「はい」
(ベル)
「この弟夫婦に二歳になる男の子がいるんですが」
(ベル)
「はあ」
(ベル)
「この子がこのごろ大層やんちゃになってきまして」
(ベル)
「はい」
(ベル)
「昨日も部屋の中でボール投げをして遊んでたんですが」
(ベル)
「はい」
(ベル)
「おりわるく投げたボールが明かりに当たりまして」
(ベル)
「ええ」
(ベル)
「電球が割れちゃったんですね」
(ベル)
「あら」
(ベル)
「はいもしもし」
「杉野森ですけど、梅田さんお願いします」
「で、電球売場はどこですか」
「三階です」
「えーと。あなた梅田さん?」
「はいそうですが」
「杉野森さんから電話です」
「ああっお客様すみません。はい梅田です」
「あもしもし杉野森ですけど、KI3−Roね、青しかないや」
「あそう。入荷の予定は」
(ベル)
「二週間後だね」
(ベル)
「わかりました。どうもすみません。お客様、あいにく在庫が青しかないんですが、よろしいでしょうか」
(ベル)
「ふーんそうなんだ。白はいつ入りますか」
(ベル)
「二週間後になります」
(ベル)
「うーん、じゃあ、青でいいです」
(ベル)
「はいもしもし」
「いつもお世話になっております三本松電機です」
「お世話になっております」
「松本主任いらっしゃいますか」
「少々お待ちください。……あの、松本主任って方に電話なんですが」
「ああああっお客様すみません。しゅにぃぃん、松本しゅにぃぃん」
「なんだぁぁぁぁ」
「でんわぁぁぁぁ」
「あああああっすみません。はい松本です」
「えーと、青でよろしいですか。ただいまご用意いたしますので少々お待ちください。……もしもし」
「はい」
「梅田ですけど、杉野森さんお願いします」
「すぎ……なんだって?」
「杉野森です」
「杉野さん?」
「いえ、す・ぎ・の・も・りです」
「えーっとで、杉野森さんからどなたに電話?」
「いえ、私が梅田で、杉野森に電話なんですが」
「ああああそういうことね。はいはいちょっと待って。梅田さんって方に電話」
「ああっ申し訳ありません。あの、梅田は五階の売場になりますので、転送しますので少々お待ちください」
「ああっ、杉野森さん、待って」
(ベル)
「はい」
「もしもし杉野森ですけど、梅田さんお願いします」
「少々お待ちください。……えーっと、梅田さんって人に電話ですけど」
「ああっお客様申し訳ありません。おーい、梅田くん、電話」
「もーう、やっ!」
「おーい、早く電話に出なさい」

[完]


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