大型法律小説

順番法

佐野祭


  第一章 総則

 (目的)
第一条 この法律は、共同社会生活を送るために各自が最低限守るべき義務を定め、社会生活の健全な秩序を維持することを目的とする。
 (定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 一 順番 一列に並ぶ、または整理券を配布するなどの手段により参加する者の前後関係が明確にできる状態をいう。
 二 列 原則として前の順番の者の背中側に顔を向けて立つことにより、前後関係が明確にできる状態をいう。
 三 列の主催者 その列が作られた目的である商品取引・サービスを提供する者は列の主催者となる。
 四 順番の管理者 列の主催者及び整理券の配布者をいう。

 (列への参加)
第三条 列の構成は先着順とし、列に参加する意思がある者は現在ある列の最後尾に原則として直線上に立つものとする。
2 列を構成する者の間隔は1メートルを超えてはならない。
3 第1項の規定に関わらず、場所の制約により直線上に立つことが不可能な場合は折れ曲がって並ぶことを可能とする。この場合、列がそこで終わらずに曲がっていることが容易にわかるようにしなければならない。
4 列の間に通路・道路等がある場合、第2項の規定に関わらず任意の間隔をあけることを可能とする。この場合、列の主催者はその列が一続きのものであることを明確にし、混乱がないよう管理担当者を配置しなければならない。

 (列の変更)
第四条 同一の機能を果たす複数の列がある場合、一方の列が短くなる、またはなくなるなどの理由がある場合、列の構成要素である者は短くなった、またはなくなった列に移ることができる。この場合移動する前の列での優先順位は無効となり、新しい列の最後尾につかなければならない。

(整理券の配布)
第五条 列を作ることが場所の関係上または構成者の健康上の理由で好ましくないと思われるとき、順番の管理者は整理券を配布することにより列に代えることができる。

(整理券の形式)
第六条 整理券は前後関係が明確となるように正の整数の記入されたカードをもってこれにあてる。
 2 管理者が必要と判断した場合は正の整数以外にアルファベット、カナ等の記号を用いることができる。
 3 小数点以下の端数がある小数、負の整数、分数は整理券に用いることができない。
 4 管理者は6と9が容易に区別がつくように整理券のデザインを定めなければならない。

  第二章 順番
   第一節 順番の適用範囲

 (公衆便所の利用)
第七条 公衆便所を使用する際は、便器もしくは個室の前に、順番に並ばなければならない。

 (列車の利用)
第八条 鉄道の駅で客車への乗車にあたっては、あらかじめ予定されている乗車位置の前に順番に並ばなければならない。
2 前項の順番は、乗車後の座席の確保には適用されない。

 (バスの利用)
第九条 バスの乗車にあたっては、バス停の前に順番に並ばなければならない。
2 到着したバスが利用すべきバスと異なった場合は、一歩横に退いてバスを利用しない意思を明確にしなければならない。
3 前項の規定に従いバスを利用しなかった際も、そのバス停における優先順位は失われず、次のバスに有効である。

 (自動引き出し機の利用)
第十条 銀行等金融機関の自動引き出し機等を使用する際は、自動引き出し機等の前に、順番に並ばなければならない。
2 一項に従い順番に並ぶ際に、一台の機械に対し一列に並ぶか、複数台の機械に対し一列に並び空いた機械から用いるかは各金融機関が定める。
3 各金融機関は、どちらの並び方にするかを仕切りを設ける等の手段で明示しなければならない。

 (レジの利用)
第十一条 レジスター式の金銭収受機を用いる小売り店舗においては、店舗がその都度開設する窓口の前に、順番に並ばなければならない。
2 第四条の規定に従い列の変更が望ましいと商店が判断するときは、商店の従業員は「お待ちのお客様どうぞ」等の案内を口頭で行うものとする。

 (チケットの購入)
第十二条 音楽会またはスポーツ大会等のイベントの入場券を入手する際は、窓口の前に、順番に並ばなければならない。
2 売り出し開始までの時間が5時間を越える長時間にわたる場合は、第三条の規定にかかわらずマットをしく、荷物を置くなどの手段で代用できる。この場合、列を離れた場合も優先順位は失われない。
3 前項の規定において、売り出しが開始され列の位置に変動があった場合、列にその時点でいなかった者の優先順位は失われるものとする。

   第二節 順番の適用除外範囲

 (駅の売店)
第十三条 駅の売店においては順番は適用せず、店員と目があった者を優先とする。

 (レジのない小売り店舗)
第十四条 レジスター式の金銭収受機を用いず、天井にぶらさがったざるで現金の管理を行う小売り店舗においては、順番は適用しない。

 (チケットの電話予約)
第十五条 音楽会またはスポーツ大会等のイベントの電話予約等、一列に並ぶことが物理的に不可能な場合には順番は適用せず、電話が早くつながった者を優先とする。

 (バーゲンセール)
第十六条 大規模小売り店舗で行われるバーゲンセールにおいては順番は適用せず、商品を早くつかんだ者を優先とする。
2 前項の規定にかかわらず、つかんだ商品を精算するときには第十一条の規定に従い順番に並んで精算するものとする。

  第三章 権利侵害

 (割り込み)
第十七条 順番の前後関係を無視し、列に割り込むなどの物理的手段により本来の優先順位より早い優先順位を確保してはならない。

 (管理者の指導)
第十八条 順番の管理者は順番の侵害者に対し、正規の順番に戻るよう注意を促すことができる。

  第四章 罰則

 (順番の侵害)
第十九条 第十七条の規定に違反した者は、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

[完]


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