大型消費者小説
かじってはいけない
佐野祭
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マックシェイク(日本マクドナルド)
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ドリンクはいかがですかと聞かれたので、コーラやコーヒーではあまりにかじりがいがないのでまだしもなマックシェイクを選ぶことにした。ご承知の通り、この商品はストローで強く吸い込まないと口の中に入っていかない。十分に吸い込んだ後かじろうとしたが、歯の上に乗せるのがまず難しく、歯が歯に当たるだけである。窒息を覚悟でさらに大量のマックシェイクを口の中に送り込んだ。確かにかじることはできたが、ぬるりとしてかじりごたえがない。おまけに歯の根っこに沁みてたいそう冷たかった。このような冷ややかなものはかじってはいけない。
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セブンスター(日本たばこ産業)
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まずフィルターのある側からかじってみたが、ぐんにゃりとなんとも歯応えのない感触しか得られなかった。確かにかじっても問題はなさそうだが、かじる意味があるとは思えない。それではというわけで逆のサイドからかじってみた。たばこの葉が口の中に充満し、急いでうがいをしたが後味の悪さが残る。このような危険なものはかじってはいけない。
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ユニ(三菱鉛筆)
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かじるといえば鉛筆である。最近はシャープペンにおされて鉛筆の生産量も減っていると聞く。しかし、私はシャープペンの冷ややかな歯触りがどうしても好きになれない。
今回私は9Hから6Bまで17種類の鉛筆を用意してかじり比べてみた。しかし、どうもラインナップによる違いが明確でないのである。説明によれば6Bが一番濃くて9Hが一番硬いことになっているが、はっきりいって歯応えは全然変わらない。これではバリエーションを揃えている意味がない。このような半端なものはかじってはいけない。
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スコッチブライト・セルローズスポンジたわし(住友スリーエム)
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片面が緑色の金物洗いになっているやつである。歯応えは申し分ないのだが、こいつがなかなかに噛み切りにくい。意外と金物洗い部分よりもスポンジ部分のほうが柔構造なだけ噛み切るのに骨が折れる。どうにかこうにか噛み切れたが、力の入れ過ぎでには舌がざらざらになっていた。こういう舌をけがするものはかじってはいけない。
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MAXやまびこ号(JR東日本)
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東京駅で目の前にしてまず迷った。かじろうにもとっかかりがないのである。やはりかじるとすれば先端部分だろうかと先頭車両に回ってみたが、運転士の目が光っている。とうていかじれそうな状況にない。警戒を突破してかじれたとしても、そのまま電車に発車されたらたいそう間抜けである。まあ、発車したとしても次の停車駅は上野だからたいしたことないのだが。
そんなわけでのぞみ(JR東海)とかじり比べをする予定だったが、断念せざるを得なかった。このような巨大なものはかじってはいけない。
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デジタル・ムーバ(NTTドコモ)
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口に入れるには手ごろな大きさである。携帯電話はボタンがいくつもついているから、舌触りも楽しい。しかし、口の中に入れていたときにちょうど電話がかかってきた。あなたは口の中で着メロがなった経験があるだろうか。せっかく口の中にあるのだからそのまま会話しようとしたが、通話ボタンがどこにあるかわからずにくちゃくちゃやっているうちに切れてしまった。このような使い勝手の悪いものはかじってはいけない。
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松本喜三郎(佐野祭)
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かじると「痛い」といった。おまけに目には目を歯には歯をとばかりにかじり返してくる。かじられながらどうせかじるなら手児奈にすればよかったと思ったが、それをやると別のジャンルの小説になるのである。
そう、作者はたまには食わず嫌いをせずに時事パロディものも書いてみようと思ったらしいが、やはりどうみても単なるナンセンスである。どだい原作を読まずにパロディをやろうというのに無理がある。
そんなことを考えている間に鼻の頭をかじられた。このようなかじり返してくるものはかじってはいけない。
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フエキ糊(不易糊工業)
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思い出させないでくれ。
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青雲(日本香堂)
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森田公一のコマーシャルソングでおなじみの線香である。といっても森田公一自体おなじみでない人もいるかも知れない。森田公一は作曲家で、キャンディーズやアグネス・チャンのヒット曲をいっぱい作っている人である。森田公一といえばなんといっても大ヒット曲「青春時代」である。「森田公一とトップギャラン」というバンドを率い、自らボーカルとして独特の鼻声で歌っていた。
ところで、この「森田公一とトップギャラン」に一時期シュガーの笠松美樹が在籍していたのをご存じだろうか? シュガーという名前に覚えがなくても「ウェディングベル」という曲はご存じかも知れない。教会で式を挙げる元彼に悪態をつく女の歌である(こう書いてしまうと身も蓋もないが、実際こういう歌なんだからしょうがないじゃないか)。ミキこと笠松美樹はこのボーカルとキーボードを担当していて、シュガー解散後一時期トップギャランに入ったそうである。
このシュガーでベースを担当していたモーリこと毛利公子が若くして亡くなったのはご記憶の方も多かろう。妊娠中毒症の一種だったらしい。お気の毒なことである。
で、なんだっけ……そう。かじってはいけない。
[完]
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