大型西部劇小説

決闘

佐野祭


 夕陽が燃えていた。
 銃を手に背を向けて立つキサブローとヤサブロー。心配そうな顔でそれを見つめるテコナ。厳しい目をそそぐ立会人、そして大勢の野次馬。
「……勝った方がテコナをとる。いいな」
 ヤサブローが振り向きもせず言った。
「……よかろう」
 キサブローもそれに答える。
「卑怯な手を使うなよ」
「そっちこそ」
「俺が死ぬか、お前が死ぬか、二つに一つだ」
「それは違うな」
 思わず後ろを振り向くヤサブロー。キサブローが答える。
「俺が死んでお前が生き残るか、お前が死んで俺が生き残るか、あるいは俺が死んでお前も死ぬか、お前も俺も生き残るか四つに一つだ」
 ヤサブローはきっとキサブローを見据えたが
「この野郎」と絞り出すように言った。
「半殺しぐらいで勘弁してやろうと思ったが、こうなりゃ生かしちゃおけねえ」
「そうか。とするとまた違ってくるな」キサブローがつぶやく。
「俺が死んでお前が生き残るか、お前が死んで俺が半殺しになるか、お前が死んで俺が生き残るか、お前が生き残って俺も生き残るか、お前が半殺しになって俺が死ぬか、俺が死んでお前も死ぬか、お前が半殺しになって俺が生き残るか、お前が半殺しになって俺も半殺しになるかどれかだ」
 夕陽が二人を照らしつける。押し黙った人々の中二人の影だけが長く伸びてゆく。
「すまん」
 沈黙を破ったのはキサブローだった。
「お前が生き残って俺が半殺しになる、というのを忘れてた」
 ヤサブローが銃を構える暇もあらばこそ、テコナと立会人と野次馬がよってたかってキサブローを袋叩きにした。
 理屈っぽい男は西部に向かないのだ。

[完]


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