大型近未来小説「手」

第7回 ファッションには手がいる


 もちろんこういった世界だけではなく、一般の日常生活にも変化は着実に現われた。パニックに陥ったのは服飾業界である。今までのデザインが、すべて使えなくなったのだ。
「いらっしゃいませ」
「ちょっとブラウスみせてね……あら、このブラウスいいわあ」
「とてもよくお似合いですわ」
「あらでもこれ六本腕用ね……同じデザインで同じサイズで八本腕用のないの」
「八本腕用ですか、少々お待ちください……申し訳ございません、ただいまきらしております」
「残念ね……あっらー、これもいいわあ、……やあねえ四本腕用じゃないの、こんなもん今どき誰が買うのよ。八本腕用のなんかないの」
「こちらが八本腕用になりますが」
「でもこれ八本は八本だけど上から順に一本二本一本って両側に付いてるタイプじゃない。そうじゃなくて両わきに一列についてるのが欲しいのよ」
「そうですねえ、ブラウスではありませんけど……こちらはいかがでしょう」
「なによこのゼッケン」
「いえ、タンクトップです」
「なんだ……もっと気の利いたものないの」
「こちらのお徳用はいかがでしょう。これでしたら十六本まで入りますが」
「冷蔵庫じゃないのよ。しょうがないわねえ、じゃあパンツみせてくれる」
「こちらなどはいかがでしょう。八本腕用ですが」
「……なんでパンツに八本腕用があるのよ」
「ポケットに手を入れて歩く人のためです」

      (続く)

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