大型日記小説

ホワイトデイに千歳飴を

佐野祭


2月14日(曇)
 今日は、バレンタインデイ。
 わが営業第三課の紅一点、梅田手児奈が例によって義理チョコを配りに来た。
「部長、これどうぞ。いつもお世話になってます。課長、どうぞ、いつもお世話に……喜三郎さん、喜三郎さんは……これでいいよね」
 そういってペンシルチョコを置いていった。なめとんのかあいつは。去年もパラソルチョコだったではないか。大体紅一点だからといって課長が甘やかすのがいけないんだまったく。
 しかしどんなに完膚なきまでの義理チョコでもホワイトデイのお返しはせにゃならんから腹が立つ。ええい、いまいましい。

3月12日(晴)
 いとこの結婚式に出席する。久々に繁華街に出てみると、街はホワイトデイ一色だ。そういえば梅田手児奈にもお返しを買わねばならん。まったく、あちこち義理が多いことよ。
 新郎は何を着ても似合わないやつで、和服を着てもタキシードを着てもまるっきり七五三だ。まったく、千歳飴でも持たせたくなってしまう。
 まてよ。ホワイトデイに梅田手児奈に、千歳飴でも贈ったろうか。うむうむ、ペンシルチョコに対抗するのに千歳飴ならいい勝負だ。今度こそぎゃふんといわせてやる。かっかっか。

3月13日(曇のち晴)
 千歳飴を買いに行く。
「いまどき、千歳飴なんてありませんよ」
 店員が驚いたような顔でいう。
「ふーん、いつならあるね」
「やはり、七五三の時期でないと」
 仕方なく普通のカン入りのキャンディを買って帰る。くそ。思いつくのが遅かったか。

3月14日(曇)
 今日はホワイトデイだ。
 昨日買ってきたキャンディを梅田手児奈に渡すと、
「まあ喜三郎さん。いつもいつも、どうもありがとうございます」
 だと。くそ、もらうときだけしおらしくなりやがる。来年こそ、千歳飴を渡してやる。ざまあみろ。

2月14日(雨)
 今日は、バレンタインデイ。
 わが営業第三課の紅一点、梅田手児奈が例によって義理チョコを配りに来た。
「部長さんには、いつもお世話になってますからこのいちばん大きいのあげます。課長さんのも、大きいですよ。……喜三郎さん、喜三郎さんは……やっぱこれね」
 そういってシガレットチョコを置いていった。なめとんのかあいつは。去年もペンシルチョコだったではないか。大体紅一点だからといって課長が甘やかすのがいけないんだまったく。
 大体いくら義理チョコといってもお返しはせにゃならんから、腹が立つ。そもそも去年も……
 と、ここまで書いて、去年の日記を読み返してみたら、同じようなことを言っている。俺も進歩がないなあ。
 そういえば去年は、千歳飴を贈ろうとしたんだっけ。まったく三月に千歳飴があるわけないじゃないか……あっ、しまった。去年の十一月に買っておけばよかった。そうすれば今年は、ぎゃふんと言わせられたのに。
 うーん、しかし、こりゃ、「バレンタインデイに千歳飴を」計画はまた来年だな。よし、買うのを忘れないようにカレンダーに花丸つけておこう。

3月14日(晴)
 今日はホワイトデイ。
 キャンディを梅田手児奈に渡すと、
「まあ喜三郎さん。いつもいつも、どうもありがとうございます」
 だと。くそ、もらうときだけしおらしくなりやがる。ふっふっふしかし来年は千歳飴を渡されてしまうのだ。そんときになってほえづらかくな。

11月15日(曇)
 カレンダーに花丸がついている。
 いったいなんで花丸がついてるのか、さっぱりわからん。誰かの誕生日だったかな。

2月14日(晴)
 今日は、バレンタインデイ。
 わが営業第三課の紅一点、梅田手児奈が例によって義理チョコを配りに来た。
「部長さんには、今年は手作りですよ。課長さんにも、いつもお世話になってます。……喜三郎さん、喜三郎さんは……これでいっか」
 そういってライスチョコを置いていった。なめとんのかあいつは。去年もシガレットチョコだったではないか。大体紅一点だからといって……というようなことを、去年も書いたような気がしたなあ。
 そうなんだよ、あいつに千歳飴を贈るはずだったんだよ。そうだ、去年の日記をみたら、ちゃんと千歳飴を買う日にはカレンダーに花丸をつけて備えているのだ。はっはっは。
 しかし、どうも去年千歳飴を買った覚えがないなあ。まあいいや、部屋を探せば出てくるかもしれん。

3月14日(晴のち曇)
 今日はホワイトデイ。
 キャンディを梅田手児奈に渡すと、
「まあ喜三郎さん。いつもいつも、どうもありがとうございます」
 だと。くそ、もらうときだけしおらしくなりやがる。しかしおっかしいなあ、去年千歳飴買うの忘れたのかなあ。まあいいや、今年は先に日記に書いておこう。これなら忘れんだろ。

11月15日(雨)

 千歳飴を買う。

……なんで日記にこんなことが書いてあるんだ。今日日記をつけようと思ってページを開くと、もうこんなことが書いてある。でもこれ、俺の字だなあ。なんで千歳飴なんか、あっ、そうだ、梅田手児奈に贈るんだっけ。よし、明日は千歳飴を買いに行くぞ。

11月16日(晴)
 ふっふっふ、千歳飴を買ってきた。これで来年のホワイトデイは梅田手児奈に一泡ふかせてやる。ふっふっふ、ざまあみろ。

1月12日(曇のち雨)
 くそ、今日は晩飯抜きだった。大体あのくされ課長が「今日中に終わらせろ」なんてむちゃくちゃ言うから、ぶつぶつ。おまけにこんな日に限って帰ってみるとカップラーメン一つもない。ええいくそ腹が減った。冷蔵庫でもあさってみるか。
……なんで冷蔵庫に千歳飴が入ってんだろうな。そういえばしばらく前からこの千歳飴あったよなあ。兄貴の子どものかな。まあいい、腹が減っては戦はできぬ。

2月14日(晴)
 今日は、バレンタインデイ。
 わが営業第三課の紅一点、梅田手児奈が例によって義理チョコを配りに来た。
「部長さん、いつもお世話になってます。課長さん、このチョコかわいいでしょ。……喜三郎さん、喜三郎さんは……あ、これ」
 そういってムギチョコを置いていった。なめとんのかあいつは。去年もライスチョコだったではないか。大体紅一点だから……ということを、今年も書いてしまった。
 しかし今年はひと味違うのだ。ふっふっふ。はあっはあっは。

3月13日(曇)
 おっかしいなあ、去年確かに千歳飴買ったはずなんだけどなあ。冷蔵庫には入ってないし、どこいっちゃったのかな。
 やっぱ俺、千歳飴に向いてないのかなあ。

[完]


●次の作品  ●Vol.2に戻る  ●大型小説目次に戻る

  ぜひご意見・ご感想をお寄せ下さい。

 (ここのボタンを押していただくだけでも結構です)