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「うん、まあ、私の部下にもふりかけを食わない家のやつは何人もいるけどねえ、でもそいつらが食うやつに比べて、仕事の上で劣っているとか、そういうことはまったくないんだな、うん」
「そうですよ。私もよくPTAのボランティアでふりかけを食べない家にも行きましたけど、みんなとっても素直ないい子たちでしたよ」
「うん、そうそう。ほら、プロ野球選手の大山、あいつだってふりかけ食わない家で育ってあそこまでなったんだぞ。人間、やればできるんだよ」
「……お父さん。お父さん」
「ん」
「……ふりかけの話は、ほら」
「ああ、そうだな、ええと、君は何の会社にいるっていったっけ」
 喜三郎には何が何だかわからなかった。ただ一つわかったことがある……とても結婚をきりだせる雰囲気ではないということだ。喜三郎は茶碗の中の飯をかきこむと、箸を置いた。
「ごちそうさまでした。それじゃ、どうも」
 母親はあわてていった。
「あら、今お茶いれますから。ゆっくり飲んでってくださいな」
 喜三郎は席を立ってお辞儀した。
「いえ、せっかくですけど、これから用事がありますので」
 父親はさっきから同じ笑い方のまま言った。
「あ、まあ、用事があるんだったらしょうがないな。じゃあ、まあ」
「じゃあ、ねえ、また遊びにいらしてね」
 愛想よく玄関まで見送る両親に軽く会釈して、喜三郎は梅田家をあとにした。
 曲がり角を二つ曲がったとき、後ろから駆けてくる足音がした。手児奈だった。
「喜三郎くん」
 振り向くと手児奈は喜三郎の胸の中に飛び込んできた。
「ごめんね、ごめんね、ごめんね……」
 手児奈は胸の中で泣きじゃくった。
「あたし、あの時喜三郎くんのために何か言いたかったんだけど、だけど、……」
 手児奈は顔をあげて喜三郎の目を見た。そして、二三歩あとずさって言った。
「あたし、ふりかけなんか食べなくても、喜三郎くんが好き」
 そのまま手児奈は走っていった。
 曲がり角を走って行く手児奈の姿を見送りながら、喜三郎は考えた。どうも、最近世間の常識にうとくなってるみたいだ。明日からはちゃんと新聞も読もう。

 ところで、あなたの家は、ふりかけを食う家ですか?

     [完]




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