そしていよいよ恐怖の大王が来日した。
歓迎式典は途中SPが五、六人首の骨を折った程度であとは滞りなく進んだ。外相はマイクの前に立つと緊張の面もちでしゃべりだした。
「ええ、それでは、ここで大王陛下を歓迎する意味を込めまして、日本の伝統行事でありますハラキリをご覧にかけたいと思います」
鼓と笛の音が流れた。毛氈を敷き詰めた中、白装束の男がしずしずと歩いて行く。大王に向かい一礼に及ぶと座って短刀の運ばれてくるのを待つ。運ばれてきた短刀をすらりと抜き、前をはだけて位置を確かめるように刃をすべらす。切っ先が白い腹部に赤いしみをつける。そのしみはみるみる装束を染め……男は静かに倒れる。
鳴りやまない拍手の中、松本首相は大王の顔色をうかがった。よかった。気に入ったようである。首相はほっとすると同時にいままでの疲れが一気に吹き出してくるのを感じた。しかし何はともあれ、これで一つの関門を突破したのだ。首相は今まで手をつけてなかった料理をばりばりと食い始めた。
「あの、総理」
小声で外相が呼んでいるが口の中に詰め込みすぎて返事が出来ない。
「あの、総理」
「なんだ」やっとこさ飲み込んで首相は答えた。
「大王が、俺にもやらせろと言ってますけど」
飲み込みかけたものが気管に落ちそうになるのを必死でこらえていると、大王がやってきた。
「へーい、マツモト。すごいじゃねーか、ハラキリ。俺もやってみるぜ」
「いや、しかし、陛下、これはですね、」
「うおーい、カタナの準備はできたか?じゃ、いくぜ」
大王は毛氈の上にちょこんと座り刀をひっつかむとむんずと自分の腹に突き立て、そのまま動かなくなった。
杉野森外相がしゃがみこんで大王をつついていたが、立ち上がって頭を掻いた。
「死んでますね」
頭を抱える松本首相。外相は尋ねた。
「……恐怖の大王って、なんだったんでしょうね」
「俺に聞いても知るかああああああ!!」