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 かくして『落日の北品川』の連載は始まった。
 そして足掛け二十年を越える大連載となり、連載二百六十五回をもって堂々完結したのである。
「先生、どうもありがとうございました」
 連載開始当時まだ若々しい青年編集者であった弥三郎が今ではもう「小説志ん朝」の編集長になっている。
「いや、君にも色々世話をかけた。単行本としてまとめる際は、ぜひ君への賛辞をいれねばならんな」
 喜三郎も昔ほどの勢いは抜けている。丸くなった、とでもいうべきだろうか。
「で、その単行本の件なのですが……」
 弥三郎がおずおずときりだした。
「発刊が相当遅れそうなのです。なにしろかなりの分量になりますし……」
「うーん、そうかもな」
「ええ、で雑誌部といたしましても出版部に掛け合っているのですが、向こうは向こうで……つまり……これだけの物を出すとなると、やはりリスクが伴うとかで……」
「ふーん」喜三郎の目が厳しくなった。
「つまり、出ないかも知れない、ということだな」
「いえ、まだそうとは、私どもといたしましても、せっかく先生に連載していただいたわけですから……」
 喜三郎は黙ってしまった。ばつの悪さを繕おうとして弥三郎が言った。
「あの、今度、出版記念パーティがあるんですが、出席していただけますか」
「パーティ?誰の?」
「私のです」
「君が?何を出したんだ?」
「ええ、私が書いた『前回のあらすじ』をまとめて本にすることになりまして」

     [完]




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